
近年、企業における環境問題への対応は、社会的責任であるだけでなく、企業価値を高める重要な要素となっており、ISO14001は、環境マネジメントシステムの国際規格として、世界中の多くの企業が取得しています。
本記事では、ISO14001の基礎知識から取得の流れ、さらにはそのメリット・デメリットまでを徹底解説します。ISO14001の取得を検討している企業や、環境問題に関心のある方々にとって、役立つ情報が満載です。
目次
ISO14001とは
ISO14001とは、国際標準化機構(ISO)が定めた、環境マネジメントシステム(EMS)の国際規格です。ISO14001を取得した組織や企業は、環境に配慮した活動を行っていることが国際的に認められています。
公益財団法人 日本適合性認定協会(JAB)の調査によると、2025年3月現在、ISO14001の取得件数は約1万2,500件に達しています。
ISO14001の目的
ISO14001の目的は、組織や企業の活動が環境に与える影響を最小限に抑えるため、環境マネジメントシステムを構築・運用し、継続的に改善することです。具体的には、環境マネジメントシステムの構築による環境負荷の低減と、法的およびそのほかの要求事項を遵守することによる環境リスクの低減です。
環境マネジメントシステムの構築による環境負荷の低減では、組織や企業の活動、製品、サービスが環境に与える影響を評価し、その結果に基づいて具体的な目標を設定します。定期的に監視や測定を行い、評価し、改善点があれば修正を行います。
法的およびそのほかの要求事項の遵守による環境リスクの低減では、組織や企業が適用される環境関連の法規制(大気汚染防止法や廃棄物処理法など)を把握し、それに従うための仕組みを構築します。
化学物質の漏洩や騒音問題など、環境に関連するリスクは訴訟に発展する可能性や命に関わる危険性を伴うため、慎重に管理しなければなりません。
ISO14001における「環境」の対象範囲
ISO14001における環境の対象範囲は非常に広く、自然環境だけでなく、組織や企業を取り巻くさまざまな環境要素も含まれます。
【自然環境】
大気:大気汚染、温室効果ガスの排出など
水:水質汚濁、水資源の利用など
土壌:土壌汚染、土地利用など
生態系:生態系の破壊、生物多様性など
天然資源:資源の枯渇、持続可能な利用など
【組織・企業を取り巻く環境要素】
地域社会:騒音、振動、悪臭、地域住民との関係など
顧客:環境に配慮した製品・サービスの提供など
取引先:環境に配慮した原料・資材の調達、サプライチェーン全体の環境管理など
従業員:労働環境、安全衛生、環境教育など
これらの対象範囲はあくまで一部に過ぎず、組織や企業内だけでなく、近隣地域や地方、さらには国内全体や世界に対しても配慮が求められます。
ISO9001との違いは?
国際標準化機構(ISO)が発行する規格には、ISO14001以外にもさまざまなものがあります。その中でも、ISO14001とともに取得されることが多い規格がISO9001です。
ISO9001は、製品やサービスの品質向上に焦点を当て、顧客に高品質な製品やサービスを提供するための仕組みを構築する規格です。両規格を比較すると、ISO14001は「環境」を、ISO9001は「品質」を管理対象としています。
また、ISO14001が「環境」視点で「環境負荷の低減」を主な目標としているのに対し、ISO9001は「顧客」視点で「顧客満足度の向上」を主な目標としています。
とはいえ、どちらの規格もPDCAサイクルに基づいた継続的な改善を重視し、組織や企業のマネジメントシステムに関する規格であるのは共通点です。
環境マネジメントシステム(EMS)とは
環境マネジメントシステム(EMS:Environmental Management System)とは、組織や企業が環境への負担を低減し、環境パフォーマンスを向上させるための仕組みです。
前項でも触れたように、EMSは計画(Plan)・運用(Do)・評価(Check)・改善(Action)のPDCAサイクルに基づいて運用されます。
ISO14001を取得している産業の一例として、「建設業」が挙げられ、建設業における環境側面としては、建築資材(木材・鉄鋼・コンクリートなど)の利用、大気汚染物質(粉塵・排ガスなど)の排出、建築予定地の森林伐採や造成などがあります。
これらの環境側面に対して、環境マネジメントシステムを構築するためのPDCAサイクルを適用することが必要です。
【計画(Plan)】
環境方針・目標の設定:たとえば、「建設活動における環境負荷の低減と、地域社会との共生を目指す」や「建設廃棄物のリサイクル率を〇%向上させる」といった具体的な方針・目標を設定
環境影響の評価:建築資材や大気汚染物質などの環境側面を特定し、それらが環境に与える影響を評価
計画の策定:廃棄物処理計画や排水処理計画など、設定した目標を達成するための具体的な計画を策定
【実行(Do)】
計画の実施:廃棄物分別ルールの徹底・排水処理設備の設置など、計画に基づいた施策を実行
従業員への教育:環境方針や環境マネジメントシステムの重要性を従業員に周知し、組織・社内全体で環境意識向上
記録作成と保管:廃棄物処理記録・排水検査のデータを記録し、保管
【評価(Check)】
監視と測定:廃棄物リサイクル率、排水水質などを定期的に測定し、目標達成度を評価
内部監査の実施:システムの運用状況を定期的に監査し、問題点・改善点を把握
法規制遵守の確認:環境関連法など、法規制の遵守を定期的に確認
【改善(Action)】
予防処置の実施:監査や測定結果に基づき、問題点や改善点の予防処置を実施
マネジメントレビュー:システム全体の有効性を評価し、必要に応じて見直す
目標・計画の練り直し:評価結果に基づき、環境目標や計画を練り直し、より高い目標を設定
建設業に限らず、ほかの業種にも適用できる要素は多くあります。環境マネジメントシステムでは、このようなPDCAサイクルを継続的に回し、成果を上げることが必要です。
ISO14001認証の取得の流れ
ISO14001認証の取得には、要求事項を満たし、審査機関による審査に通過しなければなりません。以下では、ISO14001認証の取得の流れを解説します。
取得に向け社内体制を整える
まずは、ISO14001の取得目的を明確にし、責任者や担当者を選定します。自社にISO規格に関する知識や経験が不足している場合は、コンサルティングを依頼することも考えましょう。
コンサルタントを利用する場合、取得までにはおおよそ半年から1年程度の時間がかかることが一般的です。また、コンサルタントを依頼する際にも、担当窓口となる担当者を選任しなければなりません。
次に、ISO認証の適用範囲を設定します。ISO認証は、会社全体、支店・事業所、部門、製品・サービスなど、自社のどの範囲で構築・運用するかを選択できます。
マネジメントシステムの設計
ISO14001の要求事項では、方針に従った目的達成のために、PCAサイクルの構築・運用が求められています。そのためまずは、環境側面を特定、評価し、環境目標を設定、達成計画を策定します。
そして、マネジメントシステムに関する文書を作成します。ISO14001では、下記の事項を満たす文書の作成が必要です。
・4.3 環境マネジメントシステムの適用範囲の決定
・4.4 環境マネジメントシステム及びそのプロセス
・5.2 環境方針
・6.2 環境目標及び計画
・8.1 運用の計画及び管理
運用
構築したマネジメントシステムを実際に運用し、その後評価・改善を行います。従業員への教育や訓練を実施し、社内全体で環境意識を高めることが重要です。
運用の結果、期待した効果が得られているかを評価します。この評価には、内部監査とマネジメントレビューが含まれます。
審査
マネジメントシステムの運用ができたら、第三者審査機関に依頼して認証審査を受けます。審査は、文書審査による一次審査と、現地審査による二次審査の2段階で行われます。
一次審査では、マネジメントシステムの構築時に作成した文書や、規格で要求される文書を審査します。社内規定やマニュアル、手順書が要求事項に適合しているかを確認する審査です。
二次審査では、一次審査で確認した文書通りに業務が行われているかを中心に、運用体制を審査します。現場での運用状況や担当者への質問を通じて、適合性や有効性を確認する審査です。
取得後も定期的に審査を受ける
審査を受けて認証されれば、無事にISOを取得できます。しかし、ISO規格は認証を受けた時点で完了するものではありません。マネジメントシステムの継続的な改善が目的であるため、PDCAサイクルを回し続ける必要があります。
ISO規格を維持するためには、定期的に維持審査(サーベイランス審査)や更新審査を受けることが求められます。維持審査は、年に1回または2回実施され、マネジメントシステムのおおよそ6割の内容が確認されます。そのため、取得審査の6割程度の工数・費用で実施可能です。
更新審査は、規格有効期間の3年に1度行われ、マネジメントシステムの全体的な適合性や有効性が維持されているか、過去3年間の運用記録などが確認されます。
ISO14001の要求事項を満たすポイント
ISO14001を取得するには、要求事項を満たす必要があります。以下では、要求事項を満たす際のポイントを詳しく解説します。
環境側面を正確に洗い出す
ISO14001の基本となるのは、環境側面の特定です。組織や事業活動を全体的に俯瞰し、原材料の調達から廃棄に至るまでのプロセスを考慮して、環境側面を洗い出します。
この洗い出しを正確に行うためには、影響の大きさや発生頻度などを詳細に評価し「著しい環境側面」を特定することが必要です。著しい環境側面の特定は、環境目標の設定や環境マネジメントシステムの優先管理項目の決定、自社の環境方針策定でも非常に重要なステップとなります。
順守義務・順守評価を徹底する
ISO14001を取得するためには、関連する法律や条例、規則を順守することが求められます。
法律や条例、規則の順守はISO14001に限った話ではありませんが、とくに環境に関する規制は年々厳しくなっています。加えて、国や地方自治体の規制だけでなく、業界の自主基準や顧客からの要求事項も考慮する必要があります。
法規制違反は「知らなかった」では済まされない問題であるため、しっかりと確認し、遵守することが重要です。
社内外でコミュニケーションをとる
ISO14001では、環境方針や環境パフォーマンスに関する情報を社内外の関係者に適切に伝達することが求められます。たとえ組織・企業内で環境への取り組みを積極的に行っていても、国や地方自治体が定める基準や規定を満たしていなければ意味がありません。
社内では、従業員への教育や研修を通じて、環境意識の向上や環境マネジメントシステムへの理解を深めます。また、社外では顧客や取引先、地域住民などとコミュニケーションを図り、信頼関係を築くことが重要です。
PDCAサイクルを活用
ISO14001は、PDCAサイクルに基づく継続的な改善を重視しています。
環境マネジメントシステムは一度構築して終わりではなく、常に進化させる必要があるため、定期的な評価を行い、改善策を検討することが重要です。また、マネジメントレビューを定期的に実施し、システム全体の有効性も評価しましょう。
ISO14001認証取得のメリット、デメリット
ISO14001認証取得には、企業にとってさまざまなメリット・デメリットが存在します。 それぞれの側面を詳しく見ていきましょう。
ISO14001認証取得のメリット
ISO14001認証取得のメリットには、取引先や顧客へ対外的にアピールできる、業務改善や経費削減による生産性の向上、企業運営における環境リスクの予防、従業員のモチベーション向上の4つが挙げられます。
取引先や顧客へ対外的にアピールできる
ISO14001は、組織や企業の環境への取り組みを客観的に証明するものであり、取引先や顧客に対して効果的にアピールできます。近年注目されているSDGsやESGへの貢献も可能です。
また、ISO14001は組織や金融機関に対しても有効で、融資条件の優遇やビジネスチャンスの拡大が期待できます。
業務改善や経費削減による生産性の向上
ISO14001の導入により、業務プロセスの見直しが促進され、無駄な業務や工程の削減が可能になります。これにより生産性の向上や資源の有効活用、廃棄物の削減が実現でき、結果的にコスト削減にもつながるでしょう。
企業運営における環境リスクの予防
ISO14001では、環境リスクを特定し、それに対する予防措置を講じる仕組みを構築します。また、緊急事態に備えた準備や対応に関する要求事項も含まれており、結果として、緊急時の対応がスムーズに行えます。
従業員のモチベーション向上
環境保全への貢献は、従業員の社会貢献意識の向上にもつながります。これにより、組織や企業への誇りや愛着が育まれ、日々の業務においても環境に配慮した行動が促進されるでしょう。
ISO14001認証取得のデメリット
ISO14001認証の取得には、従業員への負担やコスト面でのデメリットがともないます。
従業員に負担がかかる
ISO14001の導入や運用には、新たな業務プロセスや記録管理が必要となるため、従業員の負担が増加する可能性があります。また、教育や研修にも時間がかかるため、注意が必要です。
負担を軽減するためには、効率的なシステムの構築や、デジタル技術を活用して業務プロセスを自動化・効率化する方法が有効です。
取得・維持にコストが発生する
ISO14001の取得には、審査費用やコンサルティング費用が発生します。さらに、認証後も定期的な維持審査や更新審査が必要となるため、継続的に費用がかかることを事前に把握しておくことが重要です。
ただし、業務の効率化や経費削減を進めることにより、長期的にはコストメリットを享受できる可能性もあります。
こちらの記事では、ISO9001ついて解説しています。取得にかかる期間・費用やメリットも取り上げているため、ぜひあわせてご覧ください。
まとめ
ISO14001は、組織や企業が環境への影響を最小限に抑え、環境パフォーマンスを継続的に改善するための国際規格です。ISO14001を取得することで、対外的なアピールや生産性向上といったメリットが得られますが、一方で従業員への負担やコストが発生することへの理解も必要です。
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